おしどり贈与の注意点
2024年07月28日 17:58
■おしどり贈与の注意点
相続税対策を考えていると、おしどり贈与という言葉を見かけることがあるかもしれません。婚姻期間が20年以上経過した配偶者に居住用不動産か居住用不動産を取得するための資金の贈与は、基礎控除の110万円以外に、さらに2,000万円までが贈与税が課税されないというものです。
2,110万円まで贈与税は課税されないので、贈与しておくと、相続税が減り、徳のようにみえるかもしれません。
確かに特になるケースもあるのですが、必ずしもそうとは言い切れない面もありますので、おしどり贈与の特例の概要と注意点をお知らせいたします。
1.居住用不動産を贈与したときの配偶者控除
特例の概要
婚姻期間が20年以上の配偶者(事実婚は不可で戸籍で判定)に居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金を贈与するときは、基礎控除110万円以外に、さらに2,000万円まで贈与税が課税されないという特例です。2,110万円を超えるときは、一般税率の贈与税が課税されます。
贈与税の一般税率
特例の適用要件
○婚姻期間が20年以上の配偶者への贈与であること。(同じ配偶者には一生に一度のみ。)
○居住用不動産(土地のみでも可ですが、夫・妻・配偶者と同居する親族のいずれかが家屋を所有していることが必要。限度面積はありません。)または、居住用不動産を取得するための資金の贈与であること。
○贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与により取得した居住用不動産に住んでいて、引き続き住む見込みであること。
特例を受けるための必要書類
贈与を受けた年の翌年に贈与税の申告をすることが必要です。
その際には、不動産の評価資料に加え、次の書類が必要です。
・戸籍謄本
・戸籍の附票
・登記事項証明書
2.相続で配偶者が取得する場合の違い
おしどり贈与を使うと将来相続財産を減らすことができますので、一見得なように思えます。
ただ、配偶者が相続で居住用不動産を取得する場合と異なるものもあります。
①登録免許税
登録免許税は、法務局で不動産の登記(名義)を配偶者にする際に法務局に納める税金です。
不動産の固定資産税評価額から所定の税率を掛けて計算します。
○贈与の場合:評価額の2.0%
○相続の場合:評価額の0.4%
仮に、評価額が1,500万円の場合、贈与では30万円、相続では6万円となります。
つまり、贈与と相続では5倍も登録免許税の金額が異なります。
②不動産取得税
不動産取得税は、不動産を取得してから4~6ヶ月後に納める都道府県税になります。
これも登録免許税と同様で、不動産の固定資産税評価額から所定の税率を掛けて計算します。
○贈与の場合:土地は1.5%、建物は3.0%
○相続の場合:0円
仮に、土地の評価額が1,000万円、建物の評価額が500万円の場合、贈与では30万円、相続では0円です。
③配偶者の控除額の違い
配偶者へ居住用不動産を贈与した場合は、贈与した金額から最高で2,110万円を控除して、贈与税を計算します。
相続で配偶者が居住用不動産を含め、財産を取得した場合は、配偶者の税額軽減の制度により、原則1億6,000万円か法定相続分の多い方の金額までは相続税はかかりません。
④配偶者の相続税の計算とは
○小規模宅地等の特例
相続で配偶者が居住用不動産の敷地を取得すると、330㎡までの敷地であれば、相続税評価額の2割で評価することができます。(他の敷地で小規模宅地等の特例を使わない場合に限ります。)
仮に、相続税評価額が200㎡の土地で2,000万円の敷地の場合、おしどり贈与であれば贈与税はかかりません。相続税の計算では、2,000万円×20%=400万円が評価になります。
相続の場合は、さらに配偶者の税額軽減が使えますので、配偶者が取得する割合にもよりますが、贈与のときの登録免許税・不動産取得税と比較すると、必ずしも贈与したほうがメリットがあるとは言い切れません。
○配偶者居住権
さらに、令和2年4月1日以降に発生した相続から、遺産分割協議・遺言等により配偶者居住権を相続することが可能になりました。
おしどり贈与をする前に、相続税、配偶者居住権を使った場合の相続税、二次相続(配偶者がお亡くなりになったときの相続)の相続税も考慮して検討する方がよいと思います。