不動産相続の手続き
2024年07月28日 17:52
■不動産相続の手続き
相続が発生した場合、現金であれば遺産分割も相続もシンプルに進めることが出来ると思いますが、不動産の場合はそう簡単ではありません。
ここでは、不動産の相続で最低限知っておくと不利益を回避できる知識として、手続きの流れや節税方法について説明してまいります。
不動産の相続を円滑に進めるために知っておくべき3つの知識は、「税金」「必要書類」「手続きの流れ」です。
1.相続税など税金
1つ目の知識である「税金」について、相続財産が一定以上の規模になると、相続税が発生します。
相続税には基礎控除という枠が設定されていて、相続財産が以下の金額以下であれば申告と納税は不要です。
「基礎控除額の計算式」
3,000万円+法定相続人の人数×600万円=基礎控除額
例えば、妻と子2人という家族で夫がなくなった場合は、3,000万円と600万円×3人分の1,800万円を足した4,800万円が基礎控除額となります。
夫が遺した財産が4,800万円以下であれば、相続税とは無縁と考えて問題ありません。また、不動産を相続する場合は、その評価額が4,800万円に満たない場合も同様に相続税は発生しません。
2.必要書類
相続を完了させるまでには、さまざまな必要書類があります。
(A)相続全体で必要になる書類
①相続人全員の戸籍謄本:非相続人が亡くなった日以降に取得したもの。
法定相続人であることを証明するために、相続人全員の戸籍謄本が必要になります。被相続人が亡くなった日以降に取得したものでないと有効でないので注意してください。
②相続人全員の印鑑証明:遺産分割協議書に押印する実印の印鑑証明。
相続人全員の戸籍謄本に加えて、印鑑証明書も必要になります。この印鑑証明は遺産分割協議書に押印する実印が本人が登録済みのものであることを証明するために用いられます。
③被相続人の戸籍謄本:「死亡」の記載があるもの。
被相続人が亡くなったことを証明するために、「死亡」の記載がある戸籍謄本を取得します。被相続人が亡くなったときに置いていた本籍地の役所で取得可能です。
④被相続人の住民票の除票:被相続人の戸籍の附票でも可。
除票とは、亡くなった人の住民票という意味です。被相続人がどこに住んでいたのかを証明するために取得します。被相続人が亡くなった時点で住民票を置いていたところの役所で取得可能です。
⑤遺言書:遺言書があれば、自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、家庭裁判所の検認手続きが必要。
故人が遺言書を作成している場合は、こちらも手続きが必要になります。遺言書には3つの種類があり、それぞれ公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言といいます。
公正証書による遺言書は、すでに法的な効力があるのでそのまま使用できます。一方、自筆証書遺言と秘密証書遺言については家庭裁判所の検認という手続きが必要になります。(※2020年7月10日以降、法務局で保管されている自筆証書遺言については、検認の手続きは不要)
なお、自筆証書遺言とは、被相続人が生前に紙とペンで自書した遺言書のことで、秘密証書遺言とは公正証書遺言と同じく公証役場で作成する遺言書になります。生前は内容を知られたくないという場合に用いられる遺言で、公証人も遺言の内容を知ることはありません。そのため、公証役場で作成された遺言書であっても家庭裁判所の検認が必要になるそうです。
⑥遺産分割協議書:非相続人が1人だけの場合や法定相続分に従う場合は不要。また、遺言書があり、その通りに分割する場合は不要。遺産分割協議が難航した場合・家庭裁判所に調停や審判を行った場合は、裁判所の調停調書もしくは審判所謄本が必要。
遺言書の通りに相続する場合や、法定相続分に従ってそのまま機械的に遺産分割を行う場合は不要ですが、それ以外に相続人同士で話し合った結果を反映させたい場合は、遺産分割協議書をさくせいします。
(B)不動産を相続する場合に必要になる書類
⑦不動産の登記事証明書(登記簿謄本):法務局で取得。
上記の①~⑥が相続全体で必要になる書類ですが、⑦~⑨の3つは不動産を相続する場合に限って必要になる書類です。
⑧不動産を相続する相続人の住民票:相続登記に必要。
相続人の中で不動産を相続する人については、その人の住民票が1通ずつ必要になります。理由は相続登記をする際に新所有者の住民票が各1通必要になるからです。
⑨不動産の固定資産評価証明書:相続登記をする際の登録免許税を計算するために必要。相続対象の不動産が所在する役所で取得。
不動産登記には、登録免許税という費用が発生します。相続登記でも同様で、相続登記をする際に登録免許税を計算するために固定資産評価証明書が用いられます。
3.手続きの流れ
不動産の有無に関係なく相続には大まかな流れがあります。被相続人(=故人)が亡くなった時点で相続が始まり、遺言書の確認や遺産分割協議書の作成を経て、相続税が発生する場合は申告と納税をして、最後に相続登記をして一連の手続きが完了となります。
相続税の申告には10ヶ月という期限があるため、これら一連の手続きを遅滞なく進めていく必要があります。10ヶ月というのは長いようで短いと感じる人が大半です。
特に相続した不動産を売却して、その売却費用で相続税の納税を考える場合は、手続きが遅れれば、不動産売却に費やせる期間が短くなり、結果、訳も分からずに予想外に不動産会社に言われるまま安い金額で売らざる得ない状況に陥っている方も多いと思います。
そのため、しっかりと流れを確認してどうぞ損をしないようにしてください。
(ア)死亡届の提出
被相続人が亡くなってから7日間以内に、役所に死亡届を提出します。名古屋市など政令指定都市であれば各区役所、それ以外の場合は市町村役場の窓口に提出します。これにより、公的に被相続人が亡くなったことが認知されます。
(イ)遺言書の確認
故人が遺言書を作成しているかどうか、その有無を確認します。代理人に託しているという場合はスムーズに見つかりますが、自分で作成して保管している場合もあるので、故人の持ち物などを探して遺言書がないかを確認します。
(ウ)戸籍謄本の取得
故人の出生から死亡に至る経緯を証明するために、戸籍謄本を取得します。これも相続手続きに必要な書類なので、できるだけ早めに取得しておくことをおすすめします。
(エ)遺産分割協議書の作成
法定相続人が複数いる場合は、「遺産分割協議書」が必要になります。相続人同士で話し合い、故人の遺産を誰がどのように相続するのかを話し合って取り決め、その内容を協議書にまとめます。
これができると相続がスムーズに進みますが、「争族」とも言われる遺産相続トラブルの大半はこの遺産分割協議の際に発生しています。
4.相続税の計算
日本の相続税は税率が高いので「金持ちは三代続かず」と言われうこともあります。ここでは相続税の計算と節税方法について説明をしてまいります。
①税額の計算
相続税の税率は累進課税になります。そのため、相続財産の規模が大きくなるほど税率が高くなります。最高税率は55%となっており、例えば6億円を超える相続税は半分以上が税金になってしまいます。
相続税の税率
課税価格がいくらなのかによって税率が導き出されます。課税価格に税率を掛けた金額から控除額を差し引いたものが「相続税額」になります。
例えば、4,000万円であれば20%が適用されるので、4,000万円×20%=800万円。そしてそこから200万円が控除額となるため、相続税額は600万円ということになります。
5.納税時期・納税方法
相続税には、納税時期という期限があります。相続の発生から10ヶ月以内と定められていて、それまでに遺産分割協議をまとめて申告し、納税を済ませる必要があります。
相続税申告は納付書を自分で記入して提出、税金の納付をする仕組みになっているので、申告書は税務署へ、納付書は金融機関へ提出します。
これらの手続きはどちらも10ヶ月以内に済ませなければなりませんが、順番はどちらが先でも問題ありません。
6.相続税を節税する基本的な考え方
相続税率は税率が高いことから、資産家など継承したしたい財産の額が大きい人にとっては死活問題になることもあります。そのため、さまざまな節税の方策がありますが、基本的には概ね評価減と特例の活用に集約されます。
評価減とは、相続財産の評価を可能な限り低くすることで、相続税率の軽減だけでなく基礎控除内に収めることができれば相続税の納税義務そのものをなくすこともできます。
不動産は現金資産よりも流動性が低いため、その分評価額が低くなる仕組みになっており、さらに賃貸用の不動産だと借家人の権利分も評価減に繋げることができます。
もうひとつ、不動産を相続する場合には、特例もしっかりと活用したいところです。有名なのは「小規模宅地等の特例」です。要件を満たせば、居住用の宅地の場合で、相続した土地のうち330㎡まで評価額を80%も引き下げることができます。
土地と建物を相続したとしても適用されるのは土地部分だけですが、それでも要件を満たしている人にとっては節税効果が高く、不動産を相続するのであれば一度確認するべき制度だと思われます。
相続税の申告では税理士に依頼することになる方が大半だと思いますが、相談の際はこうした評価減と特例の活用といった節税がどこまで有効なのかという点を是非チェックしてみてください。
いずれにしましても、不動産の相続が発生しましたら、「担当:伊藤」までどうぞお気軽にご相談ください。